山形の大切な場所で、今、何が起こっているのか?~森林のデジタル化で見えるもの~

山形県と宮城県の県境にある蔵王連峰のアオモリトドマツ(オオシラビソ)林では、ハマキガやキクイムシによる集団枯損が発生しています。これらの昆虫の大発生の原因は未解明です。2023年4月に行われたデータサイエンスカフェでは、「蔵王山のアオモリトドマツのデジタル化」という演題で、農学部のロペス・ラリー教授にご講演いただき、森林の衰退や樹種構成の変化には、虫だけでなく、気候変動も影響しているとのお話がありました。ご講演後、これからの森林研究におけるデータサイエンスの可能性や、研究を通して学生に伝えたいことについて、ロペス先生にお話しを伺いました。

聞き手・奥野貴士(データサイエンス教育研究推進センター長)

山形大学 Lopez Larry教授

(農学部主担当/森林生態学)

なぜ、蔵王をフィールドに選んだのか?

以前、モンゴルで研究していたときのテーマは森林火災でした。しかし、研究を進める中で、火災よりも虫の方が、森林に与える影響が大きいことに気がつきました。火災の方がニュースになりますが、虫の食害などにより弱くなった森林は、火災と大きく関係していました

蔵王に観光で行ったときに、森林が虫害で衰退していることを知りました。シベリアでは葉を食べる虫による食害なので森林は数年たつと復活する場合もあります。蔵王についても、当初は同じように復活すると考えていたのですが、現状では、自然に回復しないことがわかりました。蔵王の森林変化は非常にダイナミック。数年にわたって解析すると、毎年の変化がとてもよくわかります。しかも、画像データにすると、ビジュアル変化が分かりやすく、山形はもちろん世界の人たちに「蔵王に何が起きているか」、理解してもらえるようになるのではないかと思いました。

“データの集め方“を変えることで、期待できること

以前から、研究でドローンは活用していましたが、当初は撮影して“見る”だけでした。しかし、2018年にやってきたイタリアからの留学生が、ドローンで撮影した画像の解析ソフトを扱うことができ、活用の幅が広がりました。また、現在はパナマ大学の学生がいるのですが、彼はコンピューターサイエンスのスペシャリスト。ディープラーニングでの解析を担当しています。私の研究室には、いろいろな国の留学生が集まってきますが、一人ひとりがさまざまなアイデア、技術、経験を持ってやってくるので、研究が飛躍的に進んでいます。

日本は68%が森林ですが、実はまだまだ謎も多いです。ドローンを活用し、森林をデジタル化することで、謎が解けると期待しています。例えば、「一つの山の森林バイオマスがどのくらいあるか」、「伐採した場合の木材の価値はどのくらいか」なども、リアルタイムで予測できるようになれば、効率的な管理ができるようになるかもしれません。山形にとって、蔵王はとても大事な場所。今後は研究を進めると同時に、ドローンを使いながら地元の小学生~高校生などの若い世代にも現状を知ってもらえるような活動もできればと考えています。私にはない発想をもっているかもしれませんし、将来は大学に入って一緒に蔵王の研究をしてくれるかもしれませんしね。

森林研究を通して、伝えたいこと

私は気候変動影響の研究も同時に進めています。天候や気温、湿度などの気象データから、何がどのように変化しているのか分析しますが、森林生態系などの「環境」がどのように変わっているのか、気象が生態系にどのような影響を与えているのかは、わかりにくいものでした。ドローンを用いて連続的に記録することで、10年後や20年後にどのような変化が起こるのか、分析できるようになると考えています。広範囲の画像データを残すことができるので、研究も大きく広がります。森林の研究を進めるにあたり、フィールドを歩いて調査することはこれまで同様に大切ですが、広い目で森林を理解するためには、ドローンなどを用いたデジタル化も大切。多層的な視野を養うことで研究が発展していくのだと思います。  

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